Disease

痔ろう 

痔ろうとは、肛門の内側と肛門周囲の皮膚の間にトンネル状の通り道(瘻管)ができる病気で、「あな痔」とも呼ばれています。いぼ痔(痔核)、切れ痔(裂肛)と並び、代表的な肛門疾患のひとつです。

痔ろうは、肛門周囲に膿がたまる「肛門周囲膿瘍」が進行した結果として起こります。膿が自然に排出されたり、切開して排膿されたりすると一時的に症状は軽くなりますが、その際に膿の通り道が残ってしまうと痔ろうとなります。

発症は30〜40代に多く、男性に比較的多い傾向があります。また、いぼ痔や切れ痔と異なり、痔ろうは自然に治癒することがほとんどなく、根本的な治療には手術が必要とされています。まれではありますが、長期間放置した痔ろうががん化することも知られており、早めの診断と適切な治療が重要です。

肛門周囲の症状は相談しづらいと感じる方も少なくありませんが、違和感や分泌物が続く場合は、早めに医療機関で相談することが大切です。

痔ろうが起こる仕組みと原因とは?

痔ろうは突然発症する病気ではなく、感染と炎症を経て段階的に進行します。経過を知ることで、初期のサインに気づきやすくなります。

肛門陰窩への細菌感染が発端

肛門の内側には「歯状線」と呼ばれる境界があり、その部分に「肛門陰窩」という小さなくぼみがあります。このくぼみにある肛門腺へ細菌が入り込むことで感染が起こり、膿がたまる肛門周囲膿瘍が生じます。

下痢の状態では便が水分を多く含むため、通常は入り込まない肛門陰窩に便が入りやすくなり、細菌感染のきっかけとなることがあります。大腸菌などの腸内細菌が関与すると考えられています。

肛門周囲膿瘍から痔ろうへの進行

肛門周囲膿瘍では、肛門周囲の強い痛みや腫れ、発熱がみられることがあります。膿が排出されると痛みが軽くなることがありますが、内部にトンネルが残ると痔ろうへ移行します。

肛門周囲膿瘍の一部は、その後痔ろうへ進行するとされており、一時的に症状が落ち着いた場合でも注意が必要です。

痔ろうになりやすい人の特徴

痔ろうは、排便習慣や体調の影響を受けやすい病気です。強くいきむ習慣や慢性的な下痢がある方では、肛門陰窩への刺激や感染のリスクが高まります。

また、疲労やストレス、免疫抑制薬の使用などにより免疫力が低下している場合にも発症しやすくなることがあります。さらに、クローン病、結核、HIV感染症、膿皮症などの背景疾患が関与することもあります。

痔ろうの症状チェックリスト

痔ろうは進行段階によって症状が異なります。初期は肛門周囲膿瘍として発症し、その後慢性化すると特徴的な症状が現れます。

肛門周囲膿瘍の段階での症状

急性炎症の時期には、痛みが強く、日常生活に支障をきたすことがあります。座ることや歩くことがつらくなる場合もあります。

  • 肛門周囲がズキズキと強く痛む

  • 赤く腫れて熱感がある

  • 38〜39℃程度の発熱がみられる

痔ろうになってからの症状

膿が排出されるようになると痛みが落ち着くことがありますが、痔ろうそのものが治ったわけではありません。慢性的な分泌物や違和感が続くことがあります。

  • 肛門周囲にしこりを触れる

  • 下着に膿や血液が付着する

  • かゆみや湿り気が続く

見逃しやすい初期のサイン

肛門周囲の違和感や軽いしこり、少量の膿などは、初期には見過ごされやすい症状です。痛みが和らぐと自然に治ったように感じることがありますが、内部の瘻管は残っている場合があります。

違和感が繰り返す場合や、下着の汚れが続く場合には早めの受診が勧められます。

痔ろうの診断と検査の基本ルール

肛門の診察に不安を感じる方も多いですが、症状や状態に応じて必要な診察を段階的に行います。

視診・触診・指診

基本となるのは視診と触診です。肛門周囲の腫れや発赤、皮膚の変化を確認し、指でしこりや瘻管の位置を触れて状態を把握します。

画像検査(CT・MRI・超音波)

痔ろうが複雑な場合や、深い位置に広がっていることが疑われる場合には画像検査を行うことがあります。特にMRIは瘻管の走行や分岐の把握に役立ちます。

適切な画像評価により、治療方法の選択や手術計画が立てやすくなります。

クローン病など背景疾患の確認

痔ろうの背景に炎症性腸疾患が関与していることがあります。特にクローン病が疑われる場合には、大腸内視鏡検査が必要になることがあります。

単に肛門だけでなく、腸全体の状態を確認することが診断に重要な場合があります。

痔ろうの治療法と選択の注意点

痔ろうは薬だけで根治することが難しく、状態に応じた処置や手術が必要になります。

肛門周囲膿瘍への対処(排膿処置)

肛門周囲膿瘍では、まず膿を外に出す処置が必要です。切開排膿により炎症と痛みを和らげます。

膿が深部にある場合には、麻酔を使用して処置を行うことがあります。

痔ろう根治手術の種類

痔ろうに対する治療は、瘻管の位置や深さによって異なります。

切開開放術(レイオープン法)

瘻管を切り開いて処理する方法で、比較的浅い痔ろうに行われます。再発率が低い一方で、病変の位置によっては肛門機能への配慮が必要です。

くり抜き術(コアリングアウト法)

瘻管のみをくり抜いて除去する方法です。括約筋への影響を抑えながら治療できる場合があります。

シートン法

瘻管にゴムを通して徐々に治癒を促す方法です。時間はかかりますが、肛門機能を温存しやすい治療法です。

複雑痔ろうへの対応と専門施設への連携

痔ろうが枝分かれしたり深く広がったりしたものは複雑痔ろうと呼ばれます。治療が難しく、専門的な判断が必要です。

病変の状態によっては、専門施設での手術が望ましいこともあります。

放置した場合のリスクと対処法

痔ろうは症状が軽くなっても自然に治ることは少なく、放置による進行が問題になります。

炎症・膿瘍の繰り返し

膿の出口がふさがると再び膿がたまり、痛みや発熱を繰り返すことがあります。一時的に楽になっても内部病変は残っていることが少なくありません。

複雑痔ろうへの進行

放置すると瘻管が枝分かれし、より深部へ広がることがあります。複雑化すると手術内容も大がかりになり、治療期間が長くなる傾向があります。

がん化リスク

長年炎症が続いた痔ろうでは、ごくまれに痔ろうがんが発生することがあります。頻度は高くありませんが、長期間放置は避けるべきです。

日常生活での予防と生活習慣改善の対処法

痔ろうの発症や再発予防には、排便習慣や体調管理が大切です。

下痢・便秘を予防する食生活

腸内環境を整えるためには、食物繊維や十分な水分摂取が役立ちます。便通を安定させることが肛門への負担軽減につながります。

過度な飲酒や不規則な生活は下痢を誘発しやすく、症状悪化の要因となることがあります。

肛門に負担をかけない排便習慣

排便時に強くいきむことや長時間トイレに座ることは避けたほうがよいとされています。排便後は肛門周囲を清潔に保つことも大切です。

急性炎症時の応急処置の注意点

急性炎症があるときには、温めることで症状が悪化する場合があります。痛みや腫れが強いときは自己判断で対処せず、医療機関で相談することが望まれます。

実際の患者さんの事例

事例①:「膿が出て楽になったから放置していた」30代男性のケース

肛門周囲から膿が出る状態を繰り返していたものの、症状が落ち着くたびに様子をみていたケースです。受診時には瘻管が複雑化しており、治療期間が長くなりました。

症状が軽快しても病変が残ることを示す一例といえます。

事例②:「恥ずかしくて相談できなかった」40代女性のケース

症状に気づいてから半年以上相談できずにいたケースです。比較的早期の段階で適切な処置ができ、重症化を防ぐことができました。

肛門症状は相談しにくいものですが、早期受診が治療負担の軽減につながります。

早期回復と重症化を防ぐために

痔ろうは、肛門周囲膿瘍が進行して発症する病気であり、自然治癒が期待しにくい疾患です。膿が出て症状が落ち着いても、内部のトンネルが残っていれば再発を繰り返す可能性があります。

放置すると複雑痔ろうへ進行したり、まれにがん化につながったりすることもあるため、違和感や分泌物が続く場合には早めに診察を受けることが大切です。

肛門周囲の症状は受診をためらいやすいものですが、適切な時期に診断を受けることで治療の選択肢が広がります。当院では症状や背景疾患も含めて総合的に評価し、必要な治療方針をご提案しています。



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