Disease

大腸の壁の一部が外側に袋状に突出した「憩室」に炎症が起こる病気が、大腸憩室炎です。腹痛や発熱をきっかけに受診されることが多く、比較的よくみられる消化器疾患のひとつです。初期には軽い症状に見えても、進行すると入院治療が必要になることもあるため、早めの判断が大切です。
大腸憩室炎を理解するためには、まず「憩室」とは何かを知っておくことが大切です。憩室自体は珍しいものではなく、年齢とともに増える傾向があります。
憩室とは、大腸の壁の一部が外側へ小さく袋状に飛び出した状態を指します。大きさは数ミリから1センチ程度で、大腸カメラやCT検査で偶然見つかることも少なくありません。憩室があるだけでは症状がないことが多く、この状態は「大腸憩室症」と呼ばれます。
憩室の内部に便が入り込み、細菌が増殖して炎症を起こした状態が大腸憩室炎です。炎症が起こると腹痛や発熱などの症状が現れ、放置すると膿瘍や穿孔などの合併症につながることがあります。
日本では大腸憩室を持つ方が増えており、高齢になるほど見つかりやすくなります。欧米では左側結腸に多い傾向がありますが、日本を含むアジアでは右側結腸に多く、右下腹部痛として現れることが少なくありません。そのため、虫垂炎との区別が必要になる場合があります。
大腸憩室炎は単一の原因で起こるわけではなく、生活習慣や加齢など複数の要素が関与すると考えられています。
加齢により腸の壁が弱くなり、腸の動きも変化しやすくなります。その結果、大腸内の圧力が高まり、憩室が形成されやすくなります。40歳以降で増加し、高齢になるほど保有率が高まる傾向があります。
食物繊維の少ない食事では便の量が減り、便秘になりやすくなります。便秘によって腸内圧が高くなることが、憩室形成や炎症の一因とされています。赤身肉中心の食事や脂肪分の多い食生活も関連が指摘されています。
肥満、喫煙、運動不足も発症リスクに関与するとされています。また、痛み止めとして用いられるロキソニンなどのNSAIDsを長期間使用している場合も注意が必要です。
大腸憩室炎では、炎症の程度により症状の強さが異なります。軽症でも自己判断せず、症状の経過を確認することが重要です。
もっとも多い症状は腹痛で、炎症が起きている場所によって痛む部位が変わります。日本では右下腹部の痛みが比較的多くみられます。発熱や食欲低下、吐き気を伴うこともあります。
次のような症状がある場合は、早めの受診が必要です。
強い腹痛が続く
38℃前後以上の発熱がある
血便や下血がみられる
痛みが急激に悪化している
炎症が強くなると、膿瘍形成や穿孔を起こすことがあります。穿孔とは腸に穴が開いた状態で、腹膜炎につながる可能性があります。この場合は緊急入院や手術が必要になることがあります。
症状だけで確定診断することは難しく、複数の検査を組み合わせて判断します。
血液検査では炎症反応を確認します。白血球数やCRPが上昇している場合、体内で炎症が起きている可能性が高くなります。
コンピュータ断層撮影は診断に非常に有用です。腸壁の厚みや周囲の炎症、膿瘍の有無まで確認でき、重症度の評価にも役立ちます。
大腸内視鏡検査は急性期には通常行いません。炎症が落ち着いた後に実施し、憩室の状態や他の病気の有無を確認します。とくに大腸がんとの区別のために重要です。
治療方針は炎症の程度によって異なります。多くは保存的治療で改善しますが、重症例では入院が必要です。
軽症では外来治療が可能なことが多く、抗菌薬の内服と食事制限を行います。消化のよい食事を中心にし、腸を安静に保つことが基本です。数日から1週間程度で改善することが一般的です。
発熱が強い場合や膿瘍を伴う場合には入院治療を行います。点滴による抗菌薬投与や絶食管理が必要となります。状態によっては膿を排出する処置が検討されます。
穿孔や腹膜炎を伴う重症例では手術が必要です。また、再発を繰り返す場合や慢性的な合併症がある場合にも、手術が検討されることがあります。
大腸憩室炎は一度治っても再発することがあります。日常生活の見直しが予防につながります。
食物繊維を十分に摂ることが大切です。野菜、海藻、きのこ類、豆類などを取り入れることで便通が整いやすくなります。急性期を過ぎた後は、少しずつ通常の食事に戻していきます。
水分が不足すると便が硬くなり、便秘が悪化しやすくなります。食物繊維とあわせて十分な水分を摂ることが重要です。
適度な運動は腸の動きを整えます。日常的な歩行や軽い運動を続けることが、便秘予防や再発予防に役立ちます。
大腸憩室炎は比較的身近な病気ですが、強い炎症が起こると重症化することがあります。腹痛や発熱が続く場合には、単なる胃腸炎や便秘と自己判断せず、適切な検査を受けることが大切です。
多くの場合は抗菌薬や食事療法で改善しますが、再発しやすい側面もあります。一度大腸憩室炎と診断された方は、その後の体調変化にも注意し、同じような腹痛が出た際には早めに消化器内科へ相談することが望まれます。