Disease

便秘は、「何日も便が出ない」という状態だけを指すものではありません。毎日排便があっても、お腹の張りや残便感が続いたり、排便時に強くいきまなければならなかったりする場合には、便秘症に該当することがあります。日常生活に影響が出ているにもかかわらず、市販薬で対処しながら長く我慢している方も少なくありません。
便秘症は、生活習慣の影響だけでなく、背景に病気が隠れている場合もあるため、症状に応じた適切な診断と治療が必要です。ここでは、便秘症の特徴や原因、検査、治療についてわかりやすくご説明します。
「便秘」と「便秘症」は似た言葉ですが、医学的には異なる意味で使われます。便秘は、本来排泄されるべき便が腸内にとどまったり、うまく排出できなかったりしている状態そのものを指します。一方で便秘症は、その状態が続くことで日常生活に支障をきたし、治療の対象となる疾患を指します。
毎日排便があっても、排便後にすっきりしない感覚や強い排便困難があれば便秘症と判断されることがあります。反対に、2〜3日に1回の排便でも不快感がなく生活に支障がなければ、必ずしも治療が必要とは限りません。
日本の診療ガイドラインでは、便秘は単に排便回数が少ないことだけではなく、便が硬い、排便に強くいきむ、残便感がある、肛門に詰まった感じがするなど、排便に関する複数の症状を含む状態と定義されています。
そのため、「出にくい」「硬い」「残っている感じがする」といった症状が重なっている場合も、便秘症として治療の対象になることがあります。排便習慣が以前と変わったと感じる場合は、早めに相談することが大切です。
便秘症は非常に一般的な症状であり、年齢を問わずみられますが、とくに高齢になるほど増加する傾向があります。慢性便秘症は一般人口の約10〜15%にみられるとされており、身近な疾患のひとつです。
女性に多いことも特徴で、若年から中年では女性の割合が高く、高齢になると男女ともに増加します。加齢による腸の働きの低下や、服用中の薬剤、運動量の低下などが複合的に関係していると考えられています。
便秘症は原因によって大きく「機能性便秘」と「器質性便秘」に分けられます。機能性便秘は、腸の形に異常はないものの、腸の動きや排便機能に問題があるタイプです。日常診療で多くみられるのはこちらです。
一方、器質性便秘は、大腸がんや炎症性腸疾患など、腸そのものに病変があるために起こる便秘です。この場合は、原因疾患の診断と治療が優先されます。
排便回数減少型は、腸の動きが低下し、便が大腸内をゆっくり進むことで便意そのものが起こりにくくなるタイプです。便秘と聞いて多くの方がイメージするのがこのタイプです。
数日排便がない、便が硬くなりやすい、お腹が張るといった症状がみられます。
排便困難型は、便意があるにもかかわらず、直腸や肛門付近でうまく排出できないタイプです。排便時に強くいきむ必要があり、出たあとも残っている感じが続くことがあります。
排便回数はそれほど少なくなくても、残便感や肛門の閉塞感が強い場合には、このタイプが疑われます。
便秘症のなかには、別の病気や薬剤の影響によって起こるものがあります。これを二次性便秘症といいます。
糖尿病、甲状腺機能低下症、神経疾患などの全身疾患のほか、高血圧治療薬、鉄剤、向精神薬などが原因となることがあります。服用中の薬が影響している場合もあるため、受診時にはお薬手帳などの情報が参考になります。
便秘症では、排便回数の減少だけでなく、排便困難感や残便感も重要な症状です。便がコロコロと硬い、排便時に強くいきむ、出た後もすっきりしないといった訴えがよくみられます。
これらの症状が続くと、日常生活の快適さが大きく損なわれることがあります。
便秘症では、お腹の張りや腹痛だけでなく、食欲低下や胃もたれとして現れることもあります。便が腸内に長くとどまることでガスがたまり、腹部膨満感を感じやすくなります。
また、仕事や外出時に排便の不快感が気になり、生活の質が低下することも少なくありません。
次のような症状がある場合には、単なる便秘ではなく別の病気が隠れている可能性があるため、早めの受診が重要です。
血便や黒っぽい便が出る
急激な体重減少がある
便の太さや形が急に変わった
発熱や強い腹痛を伴う
ご家族に大腸がんの既往がある
便秘症の背景として多いのが、食物繊維不足、水分不足、運動不足です。食事量が少ないと便の量が減り、腸を刺激する力が弱くなります。
また、朝食を抜く習慣や不規則な生活も、排便リズムを乱す原因になります。
女性に便秘症が多い理由として、腹筋や骨盤底筋の筋力差、ホルモン変化、食事量の変化が挙げられます。月経周期や妊娠中にはホルモンの影響で腸の動きが抑えられることがあります。
そのため、妊娠中や産後に便秘が悪化する方も少なくありません。
高齢になると腸の動きが低下しやすく、加えて運動量の低下や内服薬の影響も重なります。これが高齢者に便秘症が多い理由のひとつです。
また、ストレスや睡眠不足は自律神経に影響し、腸の働きを乱すことがあります。旅行や入院など環境変化がきっかけで便秘になることもあります。
便秘症の診断では、排便回数だけでなく、便の硬さ、いきみの程度、残便感、腹部症状などを総合的に確認します。慢性便秘症では、長期間にわたって複数の症状が続いているかが判断のポイントです。
当院では、生活習慣や服用中の薬も含めて丁寧に問診を行います。
便秘症の背景に大腸の病気が隠れていないか確認するため、大腸内視鏡検査が必要になることがあります。特に、これまで一度も検査を受けたことがない方や、血便を伴う場合には重要です。
大腸がんや大きなポリープなどを除外することで、安心して治療を進めることができます。
腹部X線検査では、便が大腸のどの部分にたまっているかを確認できます。タイプの推定に役立つことがあります。
血液検査では、甲状腺機能や貧血、電解質異常など、便秘の原因となる全身状態を確認します。
便秘症の治療では、まず生活習慣の見直しが基本です。食物繊維を含む食品を取り入れ、水分を十分に摂ることが大切です。
朝食後にトイレへ行く習慣をつけることで、自然な排便反射を促しやすくなります。適度な運動も腸の働きを助けます。
生活習慣の改善だけで十分でない場合には、薬物療法を行います。浸透圧性下剤は便に水分を含ませて柔らかくし、排便を促します。
症状に応じて、腸の分泌や蠕動を調整する新しい薬剤を選択することもあります。市販薬の長期連用が適さない場合もあるため、自己判断で継続しないことが大切です。
漢方薬や乳酸菌製剤などを補助的に用いることもあります。体質や症状に応じて選択肢となりますが、単独で十分な効果が得られない場合もあります。
個々の病態に合わせて組み合わせることが重要です。
市販の便秘薬には刺激性下剤が多く含まれています。短期間の使用には有効ですが、長期に連用すると効きにくくなることがあります。
量を増やさないと効かない状態になる前に、医療機関で相談することが望まれます。
便秘症を放置すると、生活の質が低下するだけでなく、強いいきみにより血圧変動を引き起こすことがあります。高齢者では食欲低下や筋力低下につながることもあります。
単なる体質と考えず、継続する場合には原因を確認することが大切です。
便秘の症状に変化がある場合は注意が必要です。これまでと違う便の細さや形状、血便、体重減少を伴う場合には精密検査が必要になることがあります。
気になる変化があれば、早めの受診をおすすめします。
便秘症は、多くの方が経験する身近な症状ですが、長引く場合には治療が必要な疾患です。排便回数が少ないことだけでなく、残便感や排便困難感、お腹の張りも重要なサインです。
背景には生活習慣だけでなく、大腸の病気や全身疾患が関係していることがあります。市販薬で対処していても改善しない場合や、症状に変化がある場合には、早めに医療機関で相談することが大切です。適切な診断によって原因を見極めることで、症状の改善につながる可能性があります。